パン粉

えーと、何から書こう。


喧嘩した。昨夜からひきずっていて、彼女が子どもの面倒をみるのにいっぱいいっぱいになって切れて、僕もその後、不愉快なのでむすっとしていた。僕と彼女とでは子育てに携わる立場が異なるし、子どもに対する態度も異なる。僕からすれば、彼女は過剰に世話をしてしまっているように見える。しかし、そのような見方自体、子育てにかける労力(時間?)が同等でないがゆえかもしれないのである。


仲直りの試みなんだか、喧嘩の続きなんだか、なかなかおさまりがつかないままで、彼女は昼寝に入った。


子どもがぐずっているのをなだめながら今夜のメニューを考える。昨日買ったむね肉を使いたい。候補は二つ挙がった。一つは鶏むね肉のチーズ焼きで、もう一つはチキンのハーブパン粉ソテーだ。どちらもおいしそうなのだが、パン粉のソテーというのはやったことがないのでチャレンジしようと思った。


これに合わせて、副菜を考える。じゃがいもを使った何かがいいなと思って見つけたのが、ジャガイモのさっぱり和えというやつだ。レシピを見てひっかかったのが、「作り置き甘酢」というもの。これまでにも何度かこの材料を見たことがあるのだが、面倒くさそうなので避けてきた。しかし、そろそろこいつにも取り組まねばならないのかもしれないと思い、この料理に決めた。


何を買い足せばいいかをメモする。メモをしながら、この買い物を彼女にしてもらってもいいんだなと思った。役割を交換してみるのも一つの手かもしれないと思った。僕は料理をする、私は子どもの面倒をみるというのが固定的な役割分担になってしまっていて、窮屈になっているのではないだろうか。役割が固定的だと、「僕は大変でもきちんと家事をやっているのだから」というプレッシャー生まれかねない。あまりうまく説明できている気がしないが、要するに、役割観をゆさぶってみる必要があるのではないかと思った。このように考えると、ようやく気持ちのおさまりがついた。これが正解なのだという説明はできないが、気持ちがおさまることは事実なので、とりあえずはこれでよい。


そろそろ買い出しに行かねばという時間だったので、彼女を起こし、このようなことを提案する。結局、買い物は僕が行くことになったが、まあ、それはそれだ。甘酢を仕込んでから買い物に出かける。


夕食の買出しのついでに、近所のベビー用品店にも行って、お尻拭きコットンと追加のおむつ布を買う。ベビー用品店には、いろんな人がいて、この人たちにそれぞれ同じように赤ちゃんがいると思うと面白かった。


スパイス類を何種類か買うので、駅前のしょぼいスーパーではなく、チェーン系の大手スーパーに行った。ここのスーパーは鶏肉が少ないといつも思う。


鶏肉といえば、昨日はグラム単位で買ったのだが、本当は1枚、2枚という単位で買うのが正しいのではないだろうか。から揚げ用のもも肉ならともかく、1羽1羽体格が異なるであろう鶏の肉をグラム単位で買うというのはおかしな話だ。スーパーのパックだと内容量で選べるので、ついつい切りのいい数字のものや、ケチって少ないものを買ったりしていたが、これはグラム表記に惑わされていたのだ。同じように、レシピの数字には拘泥してはいけないのかもしれないと気づく。


洗剤を買うかどうか迷う。スーパーのオリジナルブランドのものは格段に安いのだが、蛍光増白剤が入っているのが気に入らない。明日でも明後日でも構わないのだからと、とりあえず保留する。三角コーナー用のネットを買う。網になっているやつではなく、ビニールに穴が空いているだけの安いものを選んだ。このタイプはすぐにつまるからと彼女は嫌うのだが、夏場は毎日取り替えるのでこれで充分なはずだ。


家に帰ると、子どもがまたぐずっている様子だった。それを見ているとあまり気が乗らなかったが、とにかく料理をする。


ジャガイモと人参を細切りにするのは結構大変な上に、あまりきれいな細切りにならない。大学の近所の餃子屋のポテトサラダみたいになればいいのに。そろそろスライサーの購入を真剣に検討しよう。


ソテーの方は、パン粉を出しすぎて、かなり余ってしまった。鶏肉にまぶす程度でいいのに、頭が働かず、「カップ1杯」というレシピの数字になんとなく流されてしまった。無駄遣いしたパン粉は初回の講習料だと考えよう。


お昼に彼女が買ってきたお惣菜が余っていると思っていたのだがなかったのでトマトを切った。



ちょっと凝ったものを作ると、それだけで満足感がある。そして、凝ったものは凝っただけおいしい。ソテーは、バジル、パセリ、ブラックペッパー、オレガノ、オリーブ油、にんにくなどでたっぷり香り付けがしてある。このしつこいまでの香り付けはいかにも西洋料理という感じがする。スパイスの小瓶を買っている時にも、ちょっと違うことをやっている感じがして面白かった。また、パン粉を使ってみて、新しいテクニックを習得したような気持ちになった。これは他の料理でも試してみたい。案外簡単だったし。


ジャガイモサラダの方は、僕はもう少し塩気が欲しかった。ジャガイモだけで作って、ごま油と塩こしょうで味付けしてもおいしそうだ。


どちらも、ちょっと多めに作ったので明日の朝食でも食べられる。自炊は大変と言えば大変だが、最後においしいものを安く食べられるのでお得な感じがする。そして、やはり作りたいものを作るべきだと思った。食べたいものを作るべきだ。有り合わせの材料で作ると、必ずしも食べたいものが作れない。めずらしい材料や少ししか使わない材料を買うと高くついてしまうような気がする。しかし、それらは今後必ず使うし、余ったものをうまいこと使っていくことを学びたい。